広島県府中市は、広島県東南部に位置する三方山に囲まれた小さな町である。

ところがこの地は、「府中」の字から察せられるように律令時代は、「国府」が置かれた地であり「備後国（びんごのくに）」の中心地であった

また、市域内には「石見（いわみ）銀山（島根県大田市大森町）」で採取した銀を陸路で山を越え江戸幕府へ運ぶなど多くの人馬が往来し賑わった「石見銀山街道（石州街道）」が走っている。

その街道沿いの府中市出口町「出口通り」と府中市上下町「上下」には、往時の繁栄を偲ばせる建物が点在し歴史的町並みが残っている。

府中市府中町にある観光案内所で散策マップをいただき、レンターサイクルを借り散策することにした。

そして向かったのは、府中市出口町「出口通り」。

街道が中国山地からやっと平地に出たところということから名付けられた「出口通り」の街並み。

山地から下りてきた「出口通り」の入口付近には、「茶店跡」や「番所跡」がある。

その石垣が残る「番所跡」付近の路地。

街道沿いに建つこの建物は、「金光邸」。

「黒漆喰」の壁・「格子」・「虫籠（むしこ）窓」そして立派な「うだつ」が上がる重厚な造りの建物である。

「黒漆喰」の壁のこの建物は、古くは藍染の製造を手掛けていた「小川邸」

この「黒漆喰」、今や材料を入手するのは大変困難である。

「格子」には、花が一輪飾られていた。

元タバコ屋さんであったこんなお宅も！

「出口通り」に面して建つ家並みの裏側には、通りと並行して「出口川」が流れる。

街道を下ってきて「出口川」に架かる「剣先橋」付近から、当時、山陰から運ばれてきた物資や府中の産物が船に積まれ、福山・大阪へと運ばれたそうである。

また「剣先」には、大きな水車が8基据え付けられ、米つき・葉タバコのきざみ等の動力として使われていたようである。

その「剣先」に建つ「桑田醤油醸造場」。

建物から水路につながる出入口が2ヶ所あった。

この建物の「なまこ壁」は実に美しい。

「なまこ壁」とは、壁面に四角い「平瓦」を並べて貼り、「めじ」と呼ばれるその継ぎ目に漆喰をかまぼこ型に盛り上げて塗った壁で、意匠的にも優れているし、丈夫で風雨にも強い壁である。

府中に来て初めて知ったのだが、「府中焼き」という名物のお好み焼がある。

昼飯に「出口通り」にある古民家を改修した「平の家」という店でその「府中焼き」をいただくことにした。

「府中焼き」は基本、薄く伸ばした生地の上に中華麺と細くきざんだキャベツを山盛り重ねて焼く「広島風お好み焼き」と同じなのだが、違いは豚バラ肉ではなく「豚ミンチ肉」を使うところである。

そして驚いたのは、ソースを塗ったその上に溶き卵をかけること。

最後にネギとかつお節をかけて完成。

ミンチ肉の脂が熱い鉄板にジュワッと広がり、麺がパリッと焼けカリカリで、「広島風お好み焼き」の定番のモヤシを入れないことで水分が少なく私好みの味と食感であった。

この日は、観光案内所でレンターサイクルを借りて散策したのだが、その観光案内所の近くには「恋しき」とい木造三階建の明治5年（1872年）創業の国登録有形文化財にも指定されている老舗旅館がある。

平成2年（1990年）まで営業していたそうだが、現在は府中市が受け継ぎリニュアルし飲食も出来る観光・商業複合施設として府中のシンボルになっている。

敷地内には、立派な庭園や離れの茶室があるのだそうだが、この日は9月中旬というのに晴天の真夏日での散策、私も妻も暑さでまいってしまい、見学は諦め今宵の宿がある福山市へと早めに向かうことにした。